フィルムの保存方法

Film Preservation

  1. ホーム
  2. フィルムの保存方法

このページの情報は、映画研究者、アーキビスト、フィルム現像所、デジタル化専門業者、弁護士など、各分野の専門家の皆さまのご協力と監修のもと作成しています。

ホームフィルムの保存方法 > #知っておきたいこと

知っておきたいこと

 フィルム保存についてお困りの方に、まずは知っておくべきフィルムの特性と管理上の基礎知識についてQ&A形式で解説します。

Q1 映画フィルムは劣化する?
A

保管している映画フィルムから酸っぱい臭いがする場合は、すでに劣化が始まっている証拠です。映画フィルムは常温での長期保管が非常に難しく、美術館や博物館の収蔵庫に多い「摂氏20度前後、相対湿度約50%」の環境でも十分とは言えません。劣化の進行を完全に食い止めることはできませんが、フィルムの特性を理解して適切な環境で管理することで、その寿命を大幅に延ばすことができます。

Q2 理想的な温度と湿度は?
A

劣化速度を遅らせるためには、できるだけ低い温度と湿度で保管することが基本です。日本工業規格(JIS 7641:2008)では一例として以下を推奨しています。
カラーフィルム:温度 -3℃以下、相対湿度 20〜40%
白黒フィルム:温度 5℃以下、相対湿度 20〜40%
24時間の空調管理が難しい場合でも、直射日光を避け、屋内のできる限り涼しい風通しのよい場所に保管しましょう。

Q3 「ビネガーシンドローム」ってなに?
A

アセテートセルロース(酢酸セルロース)をベースにしたフィルムが、空気中の水分を吸収して加水分解を起こし、強い酸性臭(酢酸ガス)を発生させる劣化現象です。進行するとフィルムが変形し、溶解・固着して利用できなくなります。この加水分解はいったん始まると二度と止めることができません。さらに、発生した酢酸ガスは周囲にある健全なフィルムの劣化までも劣化させる恐れがあります。ビネガーシンドロームは製造から30~40年で発症すると言われ、現存する映画フィルムの多くは既にビネガーシンドロームを発症していると考えられます。
*1990年代から、加水分解しないポリエチレンテレフタレートをベースにした映画フィルム(PET フィルム)が広く使われ始めました。

Q4 「ビネガーシンドローム」の対策は?
A

温度・湿度管理のほかに重要なのは、「酢酸ガスを缶や箱の中に滞留させないこと」です。密閉されたケースは、定期的に屋外などの換気のよい場所で蓋を開けて換気します。フィルムを包んでいるビニール袋などは可能な限り取り除き、保管部屋の空気を循環させましょう。年に1回程度、定期的にフィルムの状態をチェックし、巻き直しを行ってガスを放出させることも効果的です。

Q5 吸着剤・調湿剤を入れておいたほうがよい?
A

酢酸ガスを軽減するフィルム専用の吸着シートや、湿度を最適に保つ調湿剤を缶内に同梱することで、フィルムの寿命を延ばせる可能性があります。しかし、すでにビネガーシンドロームが深刻に進行している場合は、ガスを吸着しきれず効果が望めないこともあります。また、密閉の仕方や交換頻度など使用方法を誤ると逆に劣化を早めてしまう危険性もあるため、使用前に専門家に相談することをお勧めします。

Q6 カラープリントは赤くなる?
A

カラーフィルムは、イエロー・マゼンタ・シアンの3つの色素によって発色しています。このうちシアン(青緑)は最も劣化しやすく、経年とともに先に失われてしまいます。その結果、マゼンタ(赤紫)が相対的に強く残り、画像全体が赤みを帯びた状態へと褪色します。一度劣化したフィルム自体の色味を化学的に復元することはできませんが、劣化した色素がわずかでも残っていれば、現在のデジタル化技術により、本来の色調に近づけたデータを作成することが可能です。

Q7 付着したカビは除去できる?
A

フィルム側面に付着したカビは、無水エタノールを軽く含ませた布で拭き取ることができます。素手で触ると指紋の油分から再びカビが発生するため必ず手袋をご使用ください。ただし、フィルムの画像がある乳剤表面に生えてしまったカビの除去は極めて難しく、無理に落とそうとすると乳剤が剥がれる危険があるため、専門の修復機関による処置が必要です。

Q8 劣化したフィルムの酢酸ガスは身体に悪い?
A

ビネガーシンドロームにより放出される高濃度の酢酸ガスを吸い込むと、鼻や目への強い刺激、頭痛、めまいなどの健康被害を引き起こす恐れがあります。そのため、劣化フィルムの点検や換気作業は必ず屋外や換気の良い場所で行ってください。活性炭入りのマスク(N95やDS2規格推奨)を着用してガス吸入を軽減させる対策が有効ですが、いずれにしても長時間の作業は推奨されません。

ホームフィルムの保存方法 > #具体的になにができる?

具体的になにができる?

 フィルムの性質を知ったところで、そう簡単に適切な環境へは移せませんよね。そんな中、少しでも行える具体例を紹介いたします。

1

フィルムリストを作成する

ID番号を付けて写真を撮るだけでも、今後の検討や相談がしやすくなります。タイトルのほか、缶やケースに書かれている情報(制作会社、分数、撮影地、制作・購入年など)も書き留めておくと、活用時に大変役立ちます。

2

優先順位をつける

古い時代の映像、地域性の強い映像、個人撮影の映像(同じ映像が複数存在しないもの)、ネガ原版など、資料価値が高いと思われるものや、利活用につなげやすいものを選び出し、少しずつ視聴可能な環境にしていくことが大切です。

3

温度と湿度を確認する

温湿度計を使い、フィルム収蔵庫内の様々な場所を測定してみましょう。窓際や足元は湿度が高くなりやすく、カビが発生しやすくなります。空調の風が直撃する天井付近の棚に置くと劣化が早まる危険性があるため注意が必要です。

4

保管環境を整える

フィルムは屋内のできるだけ風通しがよく、涼しい場所に保管しましょう。適切な環境での保管が難しい場合は、複数回に分けてフィルムを移動させたり、定期的にフタを開けて換気を行うことをお勧めします。

5

劣化の激しいフィルムを隔離する

ビネガーシンドロームなど劣化の激しいフィルムは、他のフィルムや収蔵物へ悪影響を及ぼさないよう、別の部屋へと移して隔離します。かなり傷んだフィルムでも復元できる可能性があるため、貴重だと思われるフィルムについては専門機関に相談してみましょう。

6

ケースのメンテナンスをする

缶やケースを収蔵庫の外に出して蓋を開けて換気し、フィルムを包んでいるビニールは可能な限り取り除きます。錆びた缶や劣化したケースは新しいものに取り替え、同梱する調湿剤や酢酸吸着シートは定期的に交換しましょう。

7

活用・公開する

上映の機会を設けましょう。上映(映写)を行うことでフィルムの状態を把握でき、風通しにもなります。近年では地域ボランティア等の協力を得て活用の幅を広げている施設もあります。保存と活用は常にセットで検討することが大切です。

8

専門家に相談する

フィルムの保管や寄贈、複製、デジタル化、著作権、上映方法などについては、それぞれに詳しい専門業者や機関、団体等があります。残された映像の活用や保存を諦めてしまう前に、ぜひ一度相談してみてください。

ホームフィルムの保存方法 > #配布用パンフレット

フィルム保存・デジタル化に関する配布用パンフレット

2014〜2020年に実施した全国映画フィルム所蔵調査の終了後、調査にご協力いただいた映画フィルム所蔵施設およびご担当者向けに作成・配布したパンフレットです。画像をクリックすると、PDFをダウンロードいただけます。
*本パンフレットは調査終了時に作成したものであり、その後の状況の変化により、内容に差異が生じている場合がございます。
ご不明な点等ございましたら、記録映画保存センターまでお気軽にお問い合わせください。

映画フィルムを長く保存するために・映画フィルムについて知っておきたいこと

フィルムの劣化要因(湿気、酢酸化など)を防ぐための、施設における日常的な保管環境や取り扱いの基本ルールをまとめた実用ガイドです。

フィルム保存パンフレット (PDF / A3両面)

映画フィルムのデジタル化

保存フィルムの利活用に不可欠なデジタルアーカイブ(スキャニング)のプロセス、ファイル形式の選定方法、注意点などを図解した資料です。

デジタル化パンフレット (PDF / A3両面)

可燃性フィルムを所有していませんか?

昭和30年代前半頃まで使用されていた、自然発火の危険性を伴うニトロセルロース(可燃性)フィルムの見分け方と安全な管理・対応方法の案内です。

可燃性フィルムパンフレット (PDF / A4両面)

フィルム所蔵施設の著作権Q&A

アーカイブ機関がフィルムを公開・複製する際に直面する、著作権の存続期間、権利者の探索手続き、許諾の範囲などの疑問点に答える解説書です。

著作権パンフレット (PDF / A3両面)

映画フィルムをお持ちではありませんか?

倉庫や古い書庫などで見過ごされがちな16mm・35mmフィルム缶の重要性をアピールし、発見時の対応を促すための呼びかけ用リーフレットです。

フィルム探しパンフレット (PDF / A4両面)

映画フィルムの保存について

所蔵施設内での簡易的なフィルム状態の自己診断チェックリストや、代表的な修復フローについてシンプルに記載した配布リーフレットです。

フィルム保存パンフレット(A4版) (PDF / A4両面)